美棒氏のお稲荷さんの話
聞いた話。
怪談師の美棒氏はこの体験を、宝くじを買う事にハマっているAさんから聞いたと言う。
要点を掻い摘んで話すと、
Aさんはある日、支社の課長であり、同じく宝くじを買うことにハマっていたBさんと出会う。
Aさんが楽しみとして宝くじを買っていたことに対し、Bさんは一獲千金を夢見ていた。
ところが、宝くじなんてそう容易く当たるものではない。一獲千金と言えば尚更だ。
そこでBさんは神社などを回り、遂には神仏にすがるようになった。
「私に高額当選をさせて下さい」と。
だがいくつ神社を回って、何度同じ願いをしても一向に宝くじは当たる気配が無かった。
そんなある日、Bさんは出向いた稲荷神社でお稲荷さんの石像の耳が欠けていることに気付く。目ざとく見つけたBさんは、これだ！とばかりに、
「私に高額当選をさせて下さい。もし当たったら、そのお金でその欠けた耳を直してさしあげます。」
と頼んだのだ。
するとどうだろうか。その願いが届いたのか、Bさんは本当に、念願の高額当選を果たしたのであった。
凄いじゃないですか！ということでAさんはこの話を直接聞きに行った。
ところがBさん、肝心の欠けたお稲荷さんの石像は直していないという。
「いやね、当初は本当に直してやろうかと思ったんだよ。だけど調べると思いの外、あの石像ってやつは高いんだ。だから修理は止めることにしたよ」
「当選金は高級外車と貯金に回したよ」
とそんなことを言う。
Aさんは大丈夫かなと不安に思いながらも、本人がそんな感じなのだから仕方がない。
結局、何事もなく月日は流れていった。
だがある日、支社に出向くとBさんの姿が見えない。
疑問に思ったAさんはその事を会社の人間に尋ねると、Bさんは異動になったという。しかも凄く大きなトラブルを抱えた上で。
聞くと、Bさんは妻子がいるにも関わらず新入社員の女性とW不倫に耽るようになったのだという。
その事が相手の旦那にバレて慰謝料を請求されるハメに。
更には自分の奥さんにもそのことがバレて、家庭は崩壊。
離婚問題にまで発展して、件の高級外車と貯金まで慰謝料として支払うハメになってしまったのだとか。
会社内でのことなのでもちろん会社にも噂が広がり、異動となってしまったのだという。
結局Bさんは信頼を失い、財産を失くし、家族まで失くしてしまったのだ。
これだけならこの話、宝くじとお稲荷さんに一体何の関係があるのかと思うだろう。
だがその不倫相手の女性、なんと、稲荷神社の家の娘だというのだ。
それもBさんがあの日お願いしに行った、耳の欠けたお稲荷さんがいるあの神社の。
とここまでが美棒氏が語られていたお話でした。
まるで落語のようなオチのつき方が非常に印象的で、個人的に凄く好きな話です。
疑問点
この話、実はラジオで話されていて、美棒氏の他に1人聞き手の方がいらっしゃいました。
そこでその方も同じことを言われていたのですが、私も１つの疑問が湧くんですよね。
それは、「もしちゃんとその約束を果たしていたとしたらどうなったのか？」ということ。
まずもちろん今回の“罰”とも言えるような目に遭うことはなかったでしょう。
けれど更にその上で、「お互いに契約を果たせる者同士」ってことが分かったわけじゃないですか。
契約をすればこいつはちゃんと義務を果たす奴なんだなとお稲荷さんに知ってもらえたわけです。
それならば今後とも一層関係を深めて、よりギブ&テイクな関係になれたんじゃないでしょうか？
ウチの近所にもまあまあの豪邸があるんですが、建て替えをして凄く綺麗で現代的になったにも関わらず、その庭先には不釣り合いなほど和風なお社風の建物が立っている家があります。
全容が見えないので何とも言い難いのですが、何かそういう契約を結んだモノを祀っていて、それでこの社だけは取り壊せないのかなーとか勝手に想像してしまいます。豪邸だし。
お稲荷さんについての豆知識
さて、ここではちょっとしたお稲荷さんの豆知識です。
稲荷神は今でこそ商売繁盛！という認識が強いですが、元々は「農業の神様」だそうです。それが今のような認識に変わったのは江戸時代だというからわりかし最近なんだなーと思いませんか？
あとこれは知らなかったのですが、どうやら稲荷神社というのは東日本に特に大きく分布されているようです。というのも稲荷信仰自体が江戸を中心に発展して当時は流行だったらしく、流行神なんて言われることもあったとか。
稲荷神社の数に多い少ないがあるなんて考えたこともなかったのでとても新鮮でした。
しかし思うのは、四谷怪談が生まれたりお稲荷さんが流行ったりだとか、江戸時代の人間とはなんだかウマが合いそうです。
最後に思うこと
お稲荷さん、恐ろしいですね。
もちろんこれらの話が全て真実である、という前提だとしてもお稲荷さんと高額当選、Bさんの破滅が関係しているかは分かりません。
宝くじにお金を使う人ならば少なからず“運”の存在を信じていて神社に参拝していてもおかしくありません。裕福になった男が気が大きくなって不貞行為に走るなんてよくある話です。女性の中には実家が稲荷神社の方だっているでしょうよ。
それら全てが偶然に重なる可能性は0ではないと思います。
ただ、可能性の話をするならばそれと同じく「人智を超えた存在の見えない力が働いた」可能性も0ではないと思うんですよね。
証明されていないのであればその可能性を否定する方がよっぽど非科学的です。サンタだって細身巨乳だってもしかしたら本当に存在するのかもしれません。
あとその場でも言われていたことなのですが、なぜ高額当選（確かその場では何千万という単位の話だった）したにも関わらずほんのいくらかの修繕費用をケチったのかと。
やはりどれだけ大金を持ったとしても人の根っこの部分は中々変わらないんだなーと思ってしまいました。
ちなみに私はこの話を聞いた後もちろん、近所の稲荷神社で破損のあるお稲荷さんを探し回ったもんです。（見つかりませんでした）
