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山歩きの時たった一口だけでも弁当を残しておくべき理由。「ひだる神」の伝承

こんばんは。

皆さんそれぞれお好きな怪談ジャンルがあるかと思います。
私の場合で言えば、数ある怪談の中でも特に山の話が好きなんですよね。
日常に潜む霊の話ももちろん好きなのですが、人を騙す狐狸妖怪や、理解出来ないような不思議な現象の話なんかを聞くと、とてもワクワクしてしまいます。そして山は「そういうことが起きても仕方がないな」と思えるような妖しさがあるんですよね。

オカうさ
オカうさ

浪漫があるよね

今日はそんな山にまつわる怖い話として、とある山の妖怪を紹介したいと思います。
その名も「ひだる神」です。

ひだる神とは?

山の中などを歩いていると、それまでなんもなかったのに、急にお腹が空いてくることがあるといいます。手足はしびれ意識は朦朧とし、最終的にその場から一歩も歩けなくなってしまうのだそうです。
山の中で歩けなくなったら当然帰れなくなるわけですから本質的にそれは遭難と同義であり、行く末はもちろん死です。怖いですね。

これはひだる神という悪霊の仕業だとされています。

ひだる神は地方によって「ダラシ」、「ダリ」などとその名前を変えますが、人間に空腹感をもたらす憑き神の一種です。
不思議なことに、この伝承は西日本をメインに伝わっています。

対処法

このひだる神に憑かれた場合の対処法は簡単です。ほんの僅かでも良いので何かを食べれば良いとされています。
そのため昔の人は山歩きの際はお弁当などを全て食べ切らず、ひだる神に憑かれた時のためにほんの一口だけ残したと言います。
山の怪談を読むとよくこの手の話は見かけることが出来ますね。

また、そんな僅かのお弁当分すらないときは道端に生えている雑草を食べ、それすらない時には手のひらに「米」という漢字を書いて3回舐めるとことなきを得ることが出来るのだそうです。
私の手元に偶然あります、水木しげる先生の「日本妖怪大全」によりますと、和歌山県の山中でひだる神に憑かれた人が手のひらに「米」を書いて難を逃れたという話が掲載されていました。
手のひらに文字を書いて飲み込む(舐める)というのはおまじないなんかでもよく聞く話ですよね。緊張した時に「人」という字を書いて〜というアレです。

また、同書によると、山の中にはそこを通るとひだる神に憑かれると人々に噂される場所が多々あったそうです。面白いことに、それは峠や四辻、行き倒れのあった場所などに多いそうですよ。

考察・正体

そんな恐ろしいひだる神ですが、その正体には2種類の説が唱えられています。

餓死した者たちの霊

まず一つ目の説ですが、彼らは元々飢饉で野垂れ死んだ者たちなのだそうです。
それが死後に誰にも弔われないと周囲を彷徨う怨霊となり、最終的にひだる神になってしまうのだと言われています。

現代でこそ餓死することは中々身近に感じることのない危険性かもしれませんが、人類の歴史は飢餓との戦いでした。昔は干ばつなんかあるとそこかしこで飢饉が起こり、餓死者が出ました。そしてそんな状況ですから、きちんと弔ってもらえなかったことなんて往々にしてあったでしょう。
そうした人たちの念が集まって、こうした悪霊が産み出されてしまったのではないのでしょうか。

また、ひだる神に憑かれて死んだ者の霊もまた同じくひだる神になるとされているそうなので、ねずみ算式にその数はどんどん増えていってしまうことになります。
憑かれた者をどんどん取り込んで増殖していく様子は、その母体数が決められている「七人ミサキ」よりもタチが悪いですね。

ハンガーノック

ハンガーノックという言葉をご存知でしょうか。もう一つ囁かれているひだる神の正体は、このハンガーノックという症状です。

ハンガーノックとは、長時間に渡り激しいスポーツを行うことにより極度の低血糖状態に陥ってしまい、体が動かなくなってしまう症状のことです。このハンガーノックに陥いると他にも手足のしびれ・意識が朦朧とするなどの症状が現れるそうです。

これらの症状、ひだる神に憑かれた時の現象にそっくりではないでしょうか?

ハンガーノックは特にロードバイクやマラソンなど、体力の消耗が激しいスポーツで発症することが多いようです。
ひだる神も山中を歩いている時に遭遇する怪異だとされていました。
ロードバイクやマラソンもそうですが、山の中のハイキングも相当にエネルギーを消耗するものだと推測されます。

今でこそ装備の開発や登山技術の発達などで、ある程度山の中は歩きやすいようになりました。ところがそんなものがまるっきり無い時代、山の中を歩くというのはもっと体力の消耗の激しい行いだったのではないでしょうか。
ろくに栄養補給もせずに山中を歩き回り、低血糖状態に陥った人がいても不思議ではありません。

理解ができないまま全く体を動かすことができなくなった人には、まるで見えない何かに取り憑かれたと感じたことでしょう。

考察・思うこと

2つの説を挙げましたが、一般的にひだる神の正体は「ハンガーノック」だと言われることが多いです。実際に、上記の症状を見る限りこれら2つの症状はとてもよく似ているように思います。

しかしながら私としては山中で起こる症状全てをハンガーノック、あるいはひだる神と決めつけるのはちょっと待ってよと思います。

オカうさ
オカうさ

この世の全てが科学で説明がついちゃったらこっちは商売あがったりだよ!

例えば、ひだる神に取り憑かれた時の為の弁当を一口残しておくという対策。
私は思うのですが、そもそも枯渇した栄養素がお守り的に残しておいたたった一口の食べ物程度で回復するのでしょうか?
もっというなら、「手のひらに米」の話は一体どうなってしまったのでしょう。真っ赤なウソだったのでしょうか。「米」の字1つで体内の血糖値が戻るというのならそれこそ怪異です。
また、上ではあえて伏せましたがどうやら山の中とは違い、特にエネルギーを使わないような場所でもひだる神に遭遇することがあるそうです。それは、火葬場です。火葬場でエネルギーを使い尽くす人はもちろんいないでしょうから、そうなると場所柄もあり、やっぱりなにかしらの心霊現象が影響するのではと思えてしまいます。

かと言って、ハンガーノックという症状がこの世にあるのは事実です。
もちろん昔の人にだって発症する症状のはずですが、ハンガーノックという概念自体がまだ生れていなかったため、全てのハンガーノックは等しくひだる神に変身してしまったことでしょう。

残念ながらひだる神の存在についての真偽は分かりません。
ですが、山に登る人は口を揃えて「山では不思議なことが起こるよ」と言います。それならばハンガーノックとは違う、科学では説明がつかないようなメカニズムで、体が動かなくなってしまう人がいてもおかしくないのではないでしょうか。

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まとめ

いかがでしたでしょうか。

本日はひだる神についてご紹介させて頂きました。
このひだる神ですが、先ほども述べたように山の怖い話を読んでいると度々見かける話ですが、「神」と名の付くものに関わるとロクなことがない気がするのは私だけでしょうか・・。

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恐ろしい力を持つ手強い相手ですが、対処法が簡単なことだけが唯一の救いでしょうか。山を歩く時はほんの一口、食べるものを残しておきましょう。
世の中には色々な奇妙な慣習がありますが、もしかしたら我々が知らないだけで、何か自分の身を守るための重要な意味があるのかもしれませんね。

それではまた。